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「 お前のせいだぞ 」












「おっは―っ!!要ちゃん元気ぃー?」



ドアを引き飛び込む動作と同時に大声を上げる。
コアでは珍しい内外別足(つまり室内では靴を脱ぐタイプ)
のマンションなので靴を派手に脱ぎ散らかして勝手に上がる。


「要?」
「・・・あ・・?ゆ、うが・・・?」


いつもなら即冷たい返事が返ってくるところなのだが、今日は妙に静かな室内に勇我は訝しげに声をかける。
少し遅れての反応は、とても弱々しい声音。


「おま、どーしてんお前っ!」


部屋を見渡すと、要はベッドの上で丸くなっていた。
赤い頬とふらふらと定まらない視線で、明らかに熱があることが解る。
小さく上げた声は掠れ、呼吸が乱れて荒い。
典型的な、風邪のように見えた。

名前を呼んで、勇我は慌てて駆け寄る。
ベッドの中では要が、うるさい、とでも言いたげに手を振った。

やはり熱があるのは間違いないようだ。だが、どれくらいあるのかが解らない。
おそらく相当な高熱だろうと推測はするが、病人に対してどう看病して良いかも勇我には判断できず、
とりあえずキッチンを覗いてから(驚くほど何も無かった、調理器具はあっても肝心の食物が一切無い)
リビングに戻って受話器を上げた。

ダイアルする先はノア、美杉の携帯電話。
治癒の能力を持つ彼女ならば要の治療が可能だし、自分よりよっぽど看病も得意だろう。 





『要君が?解りました、ちょうどコアに向かってるとこだから
 あと10分もしたらそっち着くと思います。薬と食べる物、持って行きますね』
「おぉ、頼むわ」


快諾してくれた彼女に感謝しつつ、受話器を戻した。
電話機の横にズルズルと座り込んで、また寝入ってしまったらしい要を見つめる。


(・・・病気知らずの要がこんな熱出しとんねん。お前のせいやぞ一行―――・・・)

























ポ―――――ン・・・と、ワイングラスを合わせるような高い音が響いている。
さやさやと水が流れている。
その中に、常には無い存在が二つ。


「・・・・・・・」


水面から1mと少しのところに白い台が浮かんでいる。
脚は何処にも見当たらないが、人一人を乗せて、それでも平然と其処に在る。


白い台に横たわっているのは一行。
そして其れを静かに見下ろすАだ。

Аは、声にならない言葉で何かを呟くようにしている。
其の視線の先の一行の顔はまるで人形のように整っていて微動だにしないが
其の頬には少し朱が差しているように見える。
ただし彼は、呼吸と言うものを一切していない。今は。


「―――・・・・・・」


不意に、Аが一行に腕を伸ばす。軽く触れてすぐに離し、そのまま彼の顔の横に手をついた。
其の姿勢のまま、一瞬覚悟を決めるように深呼吸して、今度は静かに身を屈める。







グラスを合わせるような音が止む。







束の間、完全な無音。
そして、心地良い金属音が始まった。
耳鳴りのような其れは、徐々に高くなっていく。 
其の音が、最早超音波の域に達した頃に、Аはまたゆっくりと上体を起こした。
台についていた手で一度軽く唇を拭って、そして其の手をス、と右目へと動かす。


「・・・・・・・」


諦めのような嘆きのような溜息をついて、腕を下ろした。
どこか焦点の合っていない両の瞳で、一行を見やる。

彼の胸が、呼吸に合わせて上下していることを確認し微笑むと、気付けばいつの間にか金属音は止み、
またグラスを合わせるような高い音が何事も無かったように繰り返されていた。











 
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