『 大爆発!! 』
















「最悪!最低!ありえねぇ!!」

「ちょっと星覇・・・何回同じ台詞言えば気がすむわけ?」

「気がすむことなんてありえねぇよ!」


夏日の呆れた声に俺は吼えた。大音量が何も無い一行の部屋に響き渡って
まるでマイクを通したみたいだ。自分の声に自分で驚いてしまった。
その一瞬を一行にちゃっかり見られてしまったが、一行はクスリと笑っただけで何も言わず
咥え煙草を上下にふって大きく息を吸い込んだ。
灰が赤く滲んで、まるでこいつの瞳みたいだと思う。
一行はあの瞳で何でも読み取ってしまうからきっと俺が何に怒ってるかも見当がついているんだろう。
そんな「能力」無いはずなのに、俺はいつも不思議でたまらない。


「まぁまぁ。そんな見つめないでよ恥ずかしい」


世界一、否、火星一自然な作り笑いが紫煙を吐き出しながら身体をくねらせる。
夏日が即座に蹴りを入れたのが可笑しくて、俺が思わず笑うと


「そうそう、そうやって笑ってたほうが星は可愛いよ」


と一行が煙草を灰皿に押し付けた。曇り空と同じ色をした髪がさらりと目の前を流れる。
その後、真っ白い首筋が視界を遮った。夏日が「このタラシ」と低く呟く。
一行は夏日の小言に反応すること無く俺の額にキスした。


「理由、勇我から聞いたよ。あいつめちゃくちゃテンパってたぞ?
 また星を泣かしてしもたぁ〜もうあかんかもって」
 
「何がもうあかんかもだ・・・俺に謝りにもこないで一行に会いに来てたわけ?」

「勇我がさ」


たまに見るごく自然で暖かな表情に俺は思わず釘付けになる。だって一行は数年前まで
こんな顔できる奴じゃなかったのだ。希少価値が高いものはしっかり目に焼き付けなければ。
そんな事考えてるなんて露ほど出さない不機嫌な表情を維持している俺を夏日が睨んだのがわかった。
一行はそれも一瞥しただけで何も言わず、話を続ける。


「皆を笑かすのは簡単やのに何であいつだけはこんな難しいんやろ。
 もしかしたら格好つけたいんかな俺。って言ってたよ」
 
「・・・・・・・どーゆう意味」

「星覇は特別って意味」


知らない、そんなの。
ちゃんとあいつから聞かなきゃわからない。何でもかんでも笑いの中に閉じ込めて
真実を曖昧にしようとする勇我の悪い癖が憎い。俺は笑わせて欲しいんじゃないのだ。
ただ、本当の事が知りたい。あいつの中の真実が。そうする事で互いを信じあえたら良い。
どうしても口に出せない俺の真実をぐっと喉に押し込めるように唇を噛むと、夏日が
呆れたようにため息をついた。


「おめでたい奴らだわまったく!好きな者同士の意地の張り合いほど
 バカバカしいものって無いと思わない?」
 
 
夏日の言葉には、その台詞ほどトゲトゲしいモノは無く、ただ諭すように吐き出された。
その雰囲気に俺は不本意ながらも何も言い返せなかった。


「あんたが言えないでいる事をあの馬鹿は引き出そうとしてんのよ。強引にね。
 それに気付いてんだか無いんだかあんたも意地張っちゃうもんだから先に進めないわけ。
 あんたと同じなのよ勇我も。違う?」
 
「知らない」

「・・・・あっそう」


俺の悪い癖はこの異常なくらいの意固地だ。今回もその癖によって夏日を呆れ尽してしまったようで
俺の「知らない」に夏日は眉を潜めて嫌そうな顔をした。
どうして俺はこんなんなんだろう。もっと人に素直でありたいと思いながら、どうしても譲れない
自分の中の真実を隠し通そうとする。そのくせ人には打ち明けて欲しいと願っている。
これじゃぁ誰だって真実をくれないのは当然だ。勇我だって、いつか愛想つかして離れていくだろう。
そう思うとなんだか恐ろしくて、思わず目の前にある一行の腕を取った。一行は振りほどくでも無く
ポンッと一回、俺の頭を叩くと言った。


「人を信じることはすごく難しい事だよ。でも今お前が信じたいと思ってんのは勇我でしょ?」


意味は聞かずともわかった。ゆっくりあげた視線の先には、何の表情も浮かんでいない
冷たい眼差しと弓なりに引き上げられた口元があった。


「ちんたらしてたら獲られちゃうよ、俺に」

「人はそれを脅迫と言う・・・」

「いや・・脅迫とは違う」


悪魔のような人の悪い笑顔が耳元で囁いた。


「宣戦布告」


あぁ・・・。
早く助けに行かないと。
俺は絶対的な使命感に突き動かされるようにして
無言のうちに部屋を飛び出したのだった。


逃げるように走って行く星覇のバイクを窓越しに見送りながら一行は呟いた。


「これで少しは進展するかな。あの馬鹿っぷる」

「今度泣きつきに来たら星覇を吊るし上げて無理やり吐かそうよ」

「勇我に言わせる所がお前の可愛いところだね」

「星覇は囚われの姫君がお似合いだと思うのよ。絶対可愛い・・」


夏日の照れを隠すような真顔に一行は目を細めて、思いついたように提案した。


「城でも建てるか・・・」

「どこによ?」

「エゴ」

「私、シャチホコつけたいな」






END


なんだか複雑な人間関係になりましたが一行に他意はありません。(笑) 彷徨は常にトバッチリを食う役目。