『 神と呼べ 』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いつからだったろうか?
あんたとの間に言葉が不要になったのは。
 
 
 
 
「カナ」


今日は久しぶりの休養日。ここ数週間、施設からの任務で忙しくしてたから一行さんの
この一言には内心驚いた。だってこの人4日はまともに寝てないはずだ。
どうやらそんな思惑が少し顔に出ていたらしい。
一行さんがにっこり笑ってもう一言。


「カナ」


これをされると誰もNOとは言えないのをこの人は分かっている。
あんたが恐れられてる理由その@。
あの笑顔はNOをYESに変えてしまう。
俺はこれでも免疫ついたほうだと自負してるけど。


「・・・・・解ったよ」


そう言って俺がため息ついた途端あの人はあはは、と笑ってアジトを出て行った。
周りにいたみんながそのやり取りを不思議そうに見ている。まぁ仕方ない。
奴等から見れば一行さんは俺の名前を呼んだだけだし、俺が何に渋々了解を出したのかなんて
絶対わかりっこないだろう。一部を除いては。


「あの人はほんとタフだねぇ・・」


そう言って苦笑したのはチーフの参謀的存在、ジュンキだ。
それに続けて一行より年上のチーフの幹部たちが口々に言った。


「あの体のどっからそんな力が湧くんだか」

「お目付け役は一行のコト計りかねるんじゃねーの?」

「つーか一行の女房役は只者じゃねぇよ。要、お前曲者だよ」

「そこで曲者だよって言う意味あんのか?」

「ねぇよ」


さらに勝手な事ほざきはじめた奴等をとりあえず無視することにした俺は、わざと置いてったと見られる
ハイライトと年代モノのライターを見つけた。手を伸ばして取る前に誰かに先を越されてしまう。
顔を上げるとノートにマジックで書かれた綺麗な文字。


『いってらっしゃい』


それは言わずものがなAのもの。
こいつはよく気がつくしいい奴だ。
よく一行と二人でふらりと居なくなるのは少し、いや、かなり気になるのだが。


「さんきゅ」


笑顔で言って外に出るといつものごとく青い空。
ここは雨が降らないから、定期的に人口雨が降る。
日にちが公開されるから外出する時とか結構便利で慣れてしまえば不思議と違和感は無くなった。
そしてそれを背景にボケッと突っ立っている相変わらずの一行さん。
疲れを微塵も感じさせないのは流石だ。
スラリとした背中からは余裕さえ感じられる。


「一行さん。煙草忘れてる」


そう言ってさっきのを差し出すと、あの人は確信的な笑みでもって受け取った。


「一行さん確信犯だろ」

「犯って・・・何か悪い事したみたいじゃん」

「あんたねぇ・・今更俺を試してどうすんの?」

「怒ってる?」

「怒ってねぇよ!」

「怒るなよ」


俺が冗談交じりに振りかぶった拳を軽く受け取って一行さんは急に真面目顔になった。


「・・・う?」


身の危険を感じ引き下がろうとしたのを察したのかあの人は顔を近づけてフッと男前に笑った。
そりゃもう普段見せないような自信に溢れた笑みだったから、驚きを通り越してかっこいいと思ってしまった。
そうして見惚れてたら、不意打ち、一行さん得意のオトシ技。
春を思わせる柔和な笑顔が耳元で囁いた。


「どのくらいカナが俺のこと解ってくれてんのかなぁと思って。
 やっぱお前サイコーだよ。こんな事考えるまでもなかった」
 
 
この人のこういう行動とか言葉はきっと本当に無意識に出るんだと思う。
だってそうじゃなきゃここまで人の心は掴めない。
俺だけじゃなくて、例えば大勢いるコアの住民とか。
自分を隠すのが上手くて天真爛漫で飄々としててやたら上手な屁理屈ばっかで、世話焼けるしムカツクし。
嫌なところを言い出したらきり無いけど。
それでもあんたの言葉は胸に大きく響く。
あの人はこんな風に言葉を使うのが上手いのにむやみに使うのを嫌がる。
例えばさっきは外出したいって言う代わりに俺の名前を呼んだみたいに。
何であんたがそれを嫌がるのか分からなかったころはなんて矛盾した奴だとか思ってたけど、
俺とあんたの間では言葉は意味の無いものになって、初めて分かった気がした。

あんたは言葉よりも、その眼で多くを語るのを知ったから。
もしかして俺、星覇や勇我や夏日さんよりあんたのこと解ってんじゃないかって思ったり。
いや、むしろ戯れに俺達を創った神様なんかよりも。

 
「自惚れじゃないよな・・多分」


そのよくしゃべる眼に返答を求めた。


「何の話?」


しらを切るような意地悪な言葉とは裏腹のコトバをその眼は返した。
思わず吹き出してしまう。


「何で笑ってんの」

「や、俺って愛されてるなぁと思って・・」


冗談で、むしろ冷やかしてやろう思って言ったつもりだったんだけど、あの人はあっけらかんと言い放った。


「鈍いねぇカナ、今更何言ってんの。俺の愛はこんなもんじゃないよ〜?」

「・・・・へ?」

「行こ。明日からまた大仕事だからデートできなくなる」

「デ・・・デデデ?!」

「あはは。カナきょどりすぎ」


心底楽しそうに俺の手を引く。
言葉はおどけてたくせに眼があまりにまじだったため、俺は為す術もなく。

 
「やっぱただの恥ずかしがりじゃないの・・・?」

「負け惜しみはやめなさい」
 
 
 
 
 




END


過去、ハヤちゃんに送った短編を修正して出してみました。 長編内では要は一行の事を呼び捨てにしますが 私はこっちのが萌えるのであえて「さん」付け! 要はAと夏日が最大のライバルだと思っていれば良いよ。