「 WHO ARE YOU? 」












うん、と答えた躊躇いがちな、幼い声。
 
動きを止めた星覇が、勇我、一行、彷徨、美月と順にみつめあい、もう一度勇我と顔を見合わせる。
 

「「・・・・誰?」」
「やぁねぇ星ちゃん。この子よこの子」
「「・・・誰?!」」
「・・・貴様らなんぞに名乗る名は無いね」
「・・・・・・。」
「?どしたの星ちゃん??」

 
座っている自分より少し低いところから、小さく聞こえた毒舌に、思わず二人は固まった。
それに気付かない美月は首を傾げて星覇に問うが、彼は不自然な笑顔で冷汗をかくばかりだ。
 

「あ、そういえば君、名前は?」
「僕、巧(たくみ)。・・・お姉さんは?」
「私は美月って言うの。向こうにいるのが夏日で・・・」
「君、トーストでいい?」
「うん!有難う」
「こっちから一行君、星覇、勇我君、彷徨君ね」
「・・・・・ふーん」
 

あっそ、とでも言いたげな、興味のなさそうな相槌。
美月や夏日に見せる、愛らしい表情とは打って変わって、正直に言えばクソ生意気なガキである。
 

「・・・いい根性してんじゃねぇかクソガキ・・っっ」
「一発殴らせろや・・・っ」
 

押し殺した声で悪態をつき拳を握る二人を、一行が背後から、ヘッドロックをかけて止める。
放っておくと彼らは間違い無く、目の前に立つ(一応)いたいけな少年に掴みかかるからだ。
 

「??本当にどうしたの、星ちゃんも勇我君も」
「あー別になんでもねーから!気にすんなって。朝っぱらから元気有り余ってるだけだから!」
「?ふぅん・・・?」
「お兄さん、首絞めてるよ」
 

そう言えば、腕の中の二人がやけに大人しい。
最初のうちは暴れて、一行の腕をバシバシとやっていたのだが、今はピクリとも動かなくなっていた。
巧の冷静な指摘に、慌てて腕を緩めて覗きこむと、二人とも既に白目を剥いている。
 

「うわゴメン!てーかなんか泡ふいてるし!!セーイ、がっちゃまーんっ!!」
「この子ね、外の階段のトコで座り込んで寝てたんだけど」
「コアの子・・・じゃないみたいね?アクセしてないもの」
「ウチでもないな、刺青がない」
「・・・じろじろ見てんじゃねーよおっさん」
「・・・・・」
 

彷徨の視線を真っ向から受けて、逆に睨み返して小声で呟く。
勇我や星覇なら逆上するところだろうが、彷徨は鼻を鳴らす程度に留まった。
 

「シドじゃないしノアでもない。・・・お前一体どこから来たんだ」
「・・・さあ、どこだろうね」

 
当てられるものなら当ててみろと言わんばかりに、はぐらかす巧。
これに対しても彷徨は溜息をつくだけで、特になんとも思っていないらしい。
咎めるでも諦めるでもないその反応に、巧もそれ以上は何も言わなかった。
 

「美月、悪いけど手伝ってー?」
「あ、はーい」
「ナツーまだー??」
「まだ」
 

それまで皿でも咥えてろ、と切り捨てて、夏日は再び踵を返す。
その背中に美月が追いついた。
 

「そろそろ皆起き始めるかしら」
「そうね・・・作っちゃっていいんじゃないの?冷めたら各自で温め直してもらって」
「だね」
 

瞬間、全員の目がキッチンへ集まった。
 
見計らったようにスッと動く小さな影。リビングを音も無く横切ろうとして、しかし足を止めた。
後ろから、襟を掴まれたのだ。
 

「忍び足で、何処へ行く気だ?」

 
低く響いたのは、彷徨の声。そして背中には4つの視線。
 
ち、と小さく舌打ちして、巧はその手を振り払い、向き直る。
 

「別に、なんでもないよ」
「・・・・・・」
「まあどーでもいいけどなー。そのやり方で出てくなら気配殺せるようになってからな?」
 

呑気に言うのは一行だ。声は呆けているようだが、視線は鋭く冷たい。
星覇、勇我と3人まとめて、非常にガラの悪い集団になっている。
 
『ヘッド』つまり「長」である彼らの能力は明白である。
(勇我は正確にはヘッドではないのだが、それに値する実力の持ち主だ)
特殊能力はもちろんだが、機を読んだり、他人を納得させ従わせるような、言うなれば実力に裏づけされた
カリスマ性も、彼らは備えている。
立ちまわりに関して言えば、おそらく人並外れた動きを見せるだろうし、経験も半端ではないはずだ。
 

「・・・・ふん」

 
そんな男を4人も相手にする気は、巧には無い。例えやったとしても、負けるのは目に見えているからだ。
 
だけど。

 
「・・・ここでぐずぐずしてられない」
「あ?」
「来るから。確実に近づいてるから。ゆっくりなんてしてられない。せっかく自由になったんだ!
お前らなんかに邪魔されてたまるか!!」
「??」

 
だんだん大きくなっていく巧の声に、4人は首を傾げる。
彼の言っていることがよく分からない。互いに顔を見合わせて、また巧に目を戻し
星覇が口を開こうとした時。

 
「――――一行!起きてるか一行!?非常事態だ!」
 

一瞬早く、太い声が届いた。
 
随分と切羽詰った様子で室内に駆け込んでくるのは、多忙なヘッドに変わってチーフをまとめるNo.2、別名
『コア一番の苦労人』、閏希(じゅんき)である。
 

「ジュンキ。どしたー?」
「呑気に言ってる場合じゃねぇ。非常事態だ」
「だから何が」
「・・・・。施設の武装警邏隊が、強制査察やってる」

 
一呼吸おいて低く吐き捨て、少しの間、瞳を伏せた。

 
「な・・・強制査察!?」
「聞いてねーぞ」
「公式スケジュールにもなかったわ!」
「多分、奴らの最終目標はここだ」

 
再び顔を上げた閏希が告げる。
 

「何を探してるんだかしらねーが、えらく荒っぽいやり方で。既に重傷者が出てる」
「!」

 
コアの中心地であるこの建物を包囲し、追い詰めるように片っ端から捜索を行っているのだと言う。
 
武装警邏隊、と言うくらいだから相手は銃器類も所持しているのだろう。
突然の介入に抵抗した者が数人、怪我を負わされたと言うのだ。

 
「しゃーねーな・・おい、手分けして全員起こせ。美月、夏日で状況把握。ジュンキ、チーフを数人ここへ」
「わかった」
「ああジュンキ、兄貴衆に外押さえるように伝達。ここへ呼ぶのは若いので良い」
「了解!」

 
テキパキと指示を飛ばし、全員が動き出した。

 
「それから巧。ちょっと来い」
「・・・何」
「出て行きたいなら今のうちだ。忙しいからな、皆気付かねぇフリしてくれる。俺も含めて、皆」
「・・・・・・・・」

 
途端に慌しくなる室内で、一行は巧を呼びとめた。
巧は少し視線を逸らしながら彼の言葉を聞く。
 

「けどまぁ・・・警邏隊には気をつけたほうが良い。――――お前、施設の人間だろ?」
「!!」
 

内緒話の姿勢でさらりと付け加えられた一言。思わず巧は、逸らしていた目を一行へと戻した。
まさか、こんなに早く気付かれるとは、と言うような表情だ。
 

「な、んで」
「俺達の誰にも心当たりがねーなら、それ以外に有り得ない。
 まあ、施設にガキがいるってのはいまいち理解し難いが」
 

この火星で、人が生活できる場所は限られている。
ヤヌエスでないとすれば、施設か、どちらからも少し離れた所にある歓楽街か、だ。
 
が、歓楽街の住人は正規の移住民等ではない。
戸籍や世間的地位を持たない人々の住む街だ。彼らが街を出るのは地球へ戻る時か死んだとき。
黙認されてはいるが、彼らは一応、不法滞在者にあたる。
彼らはヤヌエスとも施設―アトランシスとも友好的な関係を結んでおり、互いに全く干渉しない
完全なる中立の存在である。
 
しかし、腑に落ちないのは、何故彼はヤヌエスではなく施設に入れられたのか、と言う事だ。
 

「・・・僕が・・・あいつらの手先だとか、考えないわけ?」
「俺らの事偵察に来たって?どーだろな」
 

ちょっと想像つかん、といつも通りの笑顔で巧の頭に手を乗せる。
 






 
ヤヌエスの誰もが認めるその春風のような微笑みは、彼にとって初めて見る一行の笑顔だった。
 
 
 




 


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たくみんです。弟にしたくない年下の男の子ナンバー1(笑) 一行は母性がありそう・・何でも拾ってくるし。 世話しなくても皆良い子に育つし(EX:要とかジュンキ君とか) byマジコ