「 暗闇の中の真実 」
 
 








 

数分後、建物内を駆けずり回って伊吹が集めたのは彼と
同じく数年前まで各地域のヘッドを務めていた者たちだ。
 
4人はほとんど同じ歳で、同時期に引退し、方面は違えど同じ研究者として今施設にいる。
互いに、施設内で最も信頼できる人間。そう言い換えても良いだろう。
 

「ここって…?」

 
小さく呟いたのは、連れ立って歩く5人の中でずば抜けて小柄な女。
圧倒的に女性の多い街、ノアを3年程前まで仕切っていたのがこの直(なお)だ。
どこか幼さを残す小さな顔に、色素の薄い真っ直ぐな髪。
肩を過ぎる其れを揺らしながら、辺りを見回した。
 

「お偉方が心酔してる『神殿』の近くだな」
「なんとなく近づいちゃいけない気ぃするよねこの辺」
「実際はただの建物なのにな。
 つーか科学の研究させてる組織の幹部が神を肯定してどーする」
「まったくだ」
 

直に答える形で口を開いたのが辰来(たつき)。
直とは対照的に、ずば抜けて大柄な男である。
彼は、コアの元ヘッドだ。
その辰来に伊吹が頷くと、残る一人が――こちらは女性である――が苦笑する。
 

「あら佐理、楽しそうね?」
「あぁ、いや・・・集団心理の一つのカタチだなーと思って」
「さっすが心理学者。考えることが違うね」
「そんなたいそうなもんじゃねーっつの」
 

佐理(さり)と呼ばれたのは、直より頭一つ半ほど背の高い女。
シドをまとめていた頃は、悪戯好きとしても名を馳せていた彼女も
今は心理学の研究に携わっている。
 

「ってゆーか本音は?佐理」
「すんげぇ面白そう」
「これだよ・・・」

 
嬉々とした佐理の返答に、伊吹は額を押さえた。
予想していたとはいえ、昔から彼女は「緊急」とか「非常事態」
とかそういうのが好きで、寧ろ自分で引き起こしている節すらあった。
解っていることだが、やはり頭痛がするような気がして三人は顔を見合わせた。
 

「お?」
 

其のとき、一歩先を歩いていたАが不意に立ち止まる。
合わせて四人が立ち止まると、其処は廊下の突き当たりで、数階分ある
円形の吹き抜けになっていた。今まで歩いていた廊下もそうだったが、
壁は白く、其れを映す磨かれた床も白い。
唯一違うのは天井で、高さは勿論のこと、廊下のほうは其処も白かったが
こちらは何か水のようなものが揺らめいているように見えた。
 

「此処って何階だっけ」
「地下三階」
「もしかしてアレって中庭の池?」
「・・・マジ?」
 

天井を見上げてそれぞれに呟く。
一人だけ事情を知っていそうなАを振り仰ぐと、Аは頷いた。
 
ちなみに、今はこちらが複数なので、直接彼が手を触れなければならない「補聴器」は役に立たない。
そういう場合は、彼は常に持っているノートとペンで筆談と言う手段を使う。
 

『今からこちらの部屋に入っていただきます。しかし其の前にお願いが。
 これから僕がお見せしたり話すことを、多言なさらぬよう』
「・・・?」
『其れを確約していただけないのならば、この話は無かったことにして頂きたいのです』
「・・・・」
 

改まった彼の言葉に、四人は顔を見合わせた。
 

「どうせ俺らが協力しなくても、一人でなんかやるんだろ?」
『えぇ、まあ』
「だったら決まりだな。・・・いいぜ、其の条件、飲んだ」

 
代表して辰来が答えると、Аは安心したように微笑む。
 
ではこちらへ、と手で促した先は、3つある扉のうち最も小さな一つ。
Аが前に立つと、其れはスッと開いた。
 

「・・・何ここ・・・?」
「うわ、真っ暗じゃん」
 

思わず声を上げたのは、佐理と伊吹。
最後尾を歩いていた直の肩がトントンと軽く叩かれ、Аの声が響く。
 

『そのまま真っ直ぐ歩いてください。あわせて明かりが点きますから』
「そのまま進めって。明かりがつくから」
「おっけー」
 

辰来を先頭に歩き出す。途端、Аの言葉どおりに青白い明かりが灯る。
電気や火の類ではなく、空間全体が輝いているようだ。
 

「・・・んだあれ?」
「人・・・?」

 
不意に、辰来が声を上げた。
進もうとしている先に、なにか台のような物がぽつんと二つある。
其の上に横たわっているのは、どうやらどちらも人間。
片方は、とても小さかった。
 

「・・・あれ・・・一行君じゃないかなぁ」
「なんだと!?」
 

両眼とも視力2.0以上を誇る直の言葉に、辰来は振り返った。
 
一行は辰来の後継者だ。幼い頃から面倒を見てきた彼が
どうしてこんなところに横たわっていると言うのか。
辰来が駆け出し、其の後ろを全員が追う。
傍によって確かめると、其れはやはり、一行だ。
 

「は・・・何やったんだよお前・・・」
『彼は、巻き込まれたのです。組織の裏側…真実に』
「・・・どういうことだよ」
『あちらを見てください』

 
よくわからない、と眉をひそめると、Аはス・と腕を上げて何かを指差した。
其の先にあるのはもう一つの台。そして横たわる人。おそらく、幼い少年だろう。
 

「・・・?」
「アレが、なんなんだよ」
『あれが、彼が組織の真実。もちろん、彼はその一端でしかないのですが』
「真実・・・?」
『伊吹さん、直さん、貴方がたならお分かりになるのでは?』
「・・・?」
「・・・・・あ」

 
もしかして、と2人は少年に近づいて顔を覗き込む。
ついで腕やら首やら足やらと持ち上げて観察し、顔を見合わせた。
 

「・・・やっぱり」
「あぁ」
「なんなんだよ?そいつは一体」

 
業を煮やした佐理が問う。
悩むように口を開き、答えたのは伊吹。
 

「俺らの研究の成果だよ」
「其れってつまり―――・・・」
 
 
 



 
 
「人造人間だ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
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色々わかってくる感じで。 そしてどんどん先代組が暴走していく感じで。 byマジコ