「 人造人間 」
 
 
 









 
「人造人間だ」
 
 
 
 
もともと静かだった空間が、さらにまた異様な沈黙に包まれる。
重苦しい雰囲気に耐えかねるように、直が溜息をついた。
 

「目標は、本物の人間を作ること。外見や動作だけでなく、言葉、思考、判断、感情。
 そーゆーものをね、全部持った、『本物の人間』を作るのが最終的な狙いなのよ」
「本物の人間…」
「Аは初期型で・・・今のところ一番完成度の高い個体ね。
 こっちのこの子は、Аをモデルとして各部署の研究データで作られた三期型。
 多少問題もあったけど、三期型の中で最も出来が良かったと言えるわね」
「個体ナンバー3DX54。能力制御に長け、ほぼ意思のままに操ることが出来る。
 しかし情緒面でやや未発達。外見通り子どものような行動をとることが多い。
 其の反面、行動の一つ一つに緻密な計算が見え隠れする」
 

記憶をたどりながら、次々と言葉を継ぐ。
 
二人は何気なく話しているが、実はこのことはアトランシスの最重要機密に当たる。
一般人(主に地球の人々やヤヌエスの子ども達)はおろか大多数の組織構成員にも
知らされていない事実だ。もちろん佐理も辰来もただの構成員では無いのだが、
特には知らされていなかった。
 

「ロボット作ってるんだと思ってた。似たようなもんか?
 しっかしまさか、マジで人間作るつもりとはな」
 

佐理は心理学、辰来は人体を研究している。
どちらも結局は人造人間の開発に必要不可欠なものだ。
 

「でもさ、初期型のАが性能良いのに、何でわざわざ私らの研究データ使ってんの?」
「んー・・・実を言うとね、Аってどうやって作られたのか解ってねーんだよ」
「資料によると、二十四年前にこの研究の前進だったロボット用人工知能を始めてしばらくした頃、
 培養液の中に浮かべられてたたんぱく質の塊が、ある朝に二十代前半のほぼ完璧な人間になっていた
 ・・・・らしいわ」

 
当時の研究員は、突如生まれたこの人造人間に「А」と名をつけ、
精神構成や細胞を研究し、後に二期・三期型の身体として使われる
こととなる器を開発した。其れより以前から、人口の脳髄は開発が
進んでいたため、これによって現在の人造人間開発の基本が確立されたのだ。
 

「わざわざ一から作らなくたって、クローン技術は発達してたじゃないか」
「やったんだけどな。てか其れが一期型なんだけど。十体試して
 まともに生命体になったのは一体。其れも情緒面やら能力制御やらに
 問題があって、何回も手術していろんな装置を腹ん中に押し込んである」
「その子はВ(ヴェー)って呼ばれてるんだけどね。
 ・・・こっちの子―――巧(たくみ)って言うんだけど―――と
 ちょっとだけ共通点があってね」
 

ここまで話して、二人は顔を見合わせた。
慎重に言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いたのは、伊吹だ。
 

「・・・脱走、してるんだよね」
「脱走って」
「人造人間が自分の意思で施設を脱け出したんだよ」
「そんなことあるのか」
「ごくたまーにね。最近で俺達が知ってるのは一期型のВ、三期型の巧、
 二期型も二体がやってるか。たしか、天羅(てんら)と・・・・更真(こうま)って言ったっけ?」
 

溜息と共に巧を見やる。
子どもらしい寝顔も、自分達の研究で作られたものなのだと思うと少々複雑な気分だ。
 

『更真は一月ほど前に回収されています』
「あ、そーなんだ?」
「回収ってそんな簡単に出来るもんなのか?」
「あぁ、人造人間の体内には発信機が埋めてあるから。
 この巧も多分それで場所が割れたんだろ」
「・・・ところがまぁ、ミスってあるもんでさ。二期型の天羅には
 それが無いんだよね。一期型のВは器用なことに、自分で潰したみたいだし」
『其のことなんですが』

 
直の言葉を受けて、Аが切り出した。
 

『先日、僕にВの捜索・及び抹消の指令が出ました。Вの居場所には、大体の見当がついています』
「なぁ。なんで、一行がこんなことになったんだよ・・・?」

 
今までずっと黙って話を聞いていた辰来が、振り返ってАに問う。
すぐにまた、ピクリとも動かない一行に視線を戻した。
 
皆、なんとなく解っている。一行の身体は、もうに二度と動くことは無いだろうと。
辰来が一番、そう感じているに違いなかった。
 

『巧が回収されたのは、コアの中心街でした。・・・彼は、強行突破の巻き添えになったのです』
「・・・っざけんなよ!!それで俺達に何の挨拶もねぇたぁどういうことだ!!
 人一人殺しといて、揉み消すつもりかよ!?」
 

足下の床を蹴りつけて怒鳴る。
直が口を開きかけて、止めた。伊吹と顔を見合わせて溜息をつく。
止めておけ、とは言えないのだ。自分達だって彼の立場になれば
―――ここに横たわっていたのが夏日や彷徨であったならば、
おそらく彼と同じことをするだろうから。

 
『一行さんのことは僕がなんとかします。それで、皆さんにお願いが』
「なんとかするだ?死んだ人間どーしようってんだよ!?カミサマじゃあるまいし」
「辰来」
「なんだよ!?」
 

収まりきらない怒りをАに向けた辰来。だがそれは途中で遮られた。
佐理の声と、同時に鈍い衝撃が辰来の頬を薙ぐ。不意の出来事に、辰来の身体は大きく後ろへよろめいた。
 

「っめぇ佐理!いきなり何しやがる!!」
「うるさい。話が進まないから少し黙れ」
「っ・・・・」

 
やり方はワイルドだが中身はもっともな其の言葉に、彼が口をつぐんだのを見てとって
佐理は手を差し出して彼を引っ張り起こした。
それから、で?と話の続きをАに促す。
 

「お願いって?」
『僕と、巧の発信機を外していただきたい。それから彼を
 ・・・一行さんを、彼の地域に戻してください』
「一行は生きている、と考えてもいいんだな?」
『えぇ、構いません』
「だそうだ。辰来、どうする」

 
Аの答えを受けて辰来を振り返る。
その辰来はしばらく考える様子で一行を見て、そして頷いた。

 
「・・・いいぜ、俺はノる」
「あたしもノった」
『有難うございます。直さん、伊吹さん。お2人は、いかがですか』
「うーん・・・」
「てかあたしらがノったってあんたらがいなきゃ何も出来そうに無いけどな」
「俺らはこいつらの具体的な構造なんて知らねーぞ」
「・・・・良いよ、あたしもノる」
「俺も」
 





そうやって全員が同意したのを確認し、Аはにっこりと微笑んだ。
 









 
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A大活躍の予感。てか先代の中では辰佐がオフィシャル。 喧嘩ラブっていうよりサリーの一方的な暴力が目立つ。(愛) 彼らが唯一じゃないですかね、殺伐カポーは。 byマジコ