「 間隙 」 「終わった?」 「ミヅ。・・・・・・うん、一応。 てゆっか俺アイツ苦手なんだよなー何か暗いっぽくて」 はぁ――と溜息を吐き出すと、背後で勇我が笑ったのがわかる。 「珍しいやん、セイが人嫌うやなんて」 「うー・・・別に嫌いって訳じゃないけどぉ」 「それでもや。基本的にお前は誰にでも馴れ馴れしいのがウリやのに・・・ まったくオカンは悲しいでっ!(泣き真似)」 「おかん・・・俺は、俺は・・・っ!!」 「息子ぉっ!!」 「オカン!!」 「違ぇだろっ」 徐々にノリはじめた二人を、不意に新たに現れた少年が遮った。同時に鈍い音と、美月の笑い声。 両手を広げて今にも‘おかん’―――勇我に抱き着こうとしていた星覇はそのまま静止する。 対する勇我は、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。 「け、佳(けい)・・・・」 「・・・・っ〜〜〜何サラすねんボケェっっ!」 「おはよう佳君」 「おはよーございマス」 佳はすたすたと二人の間を横切り、にこやかに美月と朝の挨拶を交わす。 そして小さな冷蔵庫を開け、常備されている大阪名物『みっくちゅ●ゅー●ゅ』(笑)の缶に口をつけた。 その間も、殴られた勇我は独り文句を言いつづける。 「お前はなんやねん一体!突然現れて挨拶も無しにグーで殴ってからに俺をなんやと思とんねん!? しかも殴ってからも一言もなしか!お前はセクハラ親父か!ド、ド、、どどめちっくばいおれっとを 正当化する暴力夫かぁっ!!!」 「どどめちっく・・・・何?」 「・・・勇我君それ間違ってるから・・・ドメスティックバイオレンスだから・・・」 「ダサっ」 多少舌を噛みながらも、最後にはきっちりと佳を指差して言い放った勇我。 が、首を傾げた星覇、溜息をついた美月、トドメとばかりに呟いた佳も、全てが一瞬白く凍りついた。 「・・・・てゆーかマズ・・・」 「何やとお前ェ!!大阪をナメたらあかんでっ!?」 「別にナメてないけど」 最初に復活した佳の一言に、勇我も動いた。 詰め寄る彼を冷静に受け流した佳は、もともとミックスジュースは好きではないのだと 短く説明する。勇我もそれを聞き、引き下がった。 一見争っているように見えるが、この2人―――星覇を含めて3人は意外と気が合うらしく チーフの中でも行動を共にする事が多い。その立場から、少年達に憧れられているのも事実だ。 「嫌いなら飲まなきゃ良いのに・・・ってもその冷蔵庫それしか入ってねーか。俺もちょっと飽きてきた」 「私もー」 「貴様らぁっ!さっきから聞いてりゃ言いたい放題!それはなぁ大阪人の魂こもっとんねんぞ!?」 「関西出身でも飲めない子多いよね」 「だよなー」 「くっ・・・・」 「てゆーかさ、この微妙な粒々果実が飲み口に引っかかるのがむかつくんだよ。次こそは 全部飲み切るぞって決意しつつ飲むんだけどやっぱり引っかかるのがキレそうになるんだよ」 悔しげに缶を見つめる佳を見て、星覇は腹を抱えて笑う。勇我も実体験として覚えがあるだけに 言い返せず拳を握るが、誰も気付いていなかった。 はぁ、と溜息を一つつくと取り敢えずは諦めて空き缶をゴミ箱へ投げ入れ、佳は星覇へと向き直る。 目尻に涙を溜めて笑い転げていた星覇もその様子を察して深呼吸をした。 「例のアレが出来たので、昼にでも見に来てくだサイ」 「おーうごくろーさん」 「本当に大変だったわねェ・・・ろくな道具も無いのにあんなもの・・・」 「だからこそ俺なんだろうけど。勇我に出来るとは思えないし」 チラッとそちらを見つつ呟く。暗に、彼に頭脳労働は向かないと言いたいらしい。 美月も確かに、と苦笑して頷いている。 「フフフフ・・・なんとでも言え! 『太郎』が来たからには俺はもうさっきまでの俺ちゃうで・・・」 隣で1歩退く星覇には目もくれず、勇我は妖しげに笑い出した。 どうやら佳の言う「例のアレ」に反応しているらしい。 「何、太郎って?」 「ミシェル!それくらい知ってな大阪人失格やで!?」 「あたし出身神奈川だからどーでも良いわ」 美月の冷静な切り返しにあえなく撃沈。床に崩れ落ちた勇我を星覇が慰める。 放っておいたら彼は壁にむかって「の」の字を書き始めるだろう。 その間に佳が美月に説明してやる。 「例のヤツの事。本名食い倒れ太郎」 「え、そうだったんだ・・・知らなかった・・・」 「俺も最近知った」 「おーいそんな真面目な顔するよーな問題じゃないと思うぞー」 「まあそーね」 「いやなんとなく。つーか向こうで既に酒盛り始まってて馬鹿騒ぎしてきたから反作用?」 星覇の言葉に頷きつつも、二人とも真面目な表情を崩さない(佳の場合はそれが 素の顔なのかもしれないが)。 例のアレ、とは食い倒れ人形の事である。関西人の多いシドを関西化させようという動きが高まり 大阪を中心とした関西の名所をここに再現しようとしているのだ。 その時、美月の携帯電話が彼女に振動を伝えた。ポケットから引っ張り出してディスプレイを確認した 美月は、意外そうに目を丸くして通話ボタンを押し、ちょっとゴメンと立ちあがる。 「Hello,Mr・・・What’s the matter? Please be cool・・・」 頭上を通過した記号の羅列に、派手に眉をしかめた勇我。 部屋の外へ出た彼女の声が完全に聞こえなくなってから、残っている二人に尋ねる。 「ミシェルってさぁ、ケータイ出たらほとんど日本語喋らんよなぁ?」 「「うん」」 「ってコトは相手も日本人ちゃうっちゅーことやんな?」 「「多分な」」 「ココ(火星)さー、今んトコ施設のオッサンしか外国人おらんよな?」 「「まーな」」 「てゆーかココの公用語日本語やし」 「「だな」」 「でもな、携帯電話って地球と直ではつながらんやん?」 「「うん」」 「じゃあ一体、ミシェルは誰と喋ってるん?」 「・・・・・・怖」 「あの人が一番スゴイと時々思う、俺」 結局、彼女が誰と話しているのかには誰も言及しなかった。 が、彼らの経験から言うと、彼女が携帯電話を使っているときは、4種類の言語が使われている。 一つはもちろん日本語だし、今回は英語だった。あとは中国語とスペイン語(だろう、おそらく)。 大半が英語で次いでスペイン語、中国語。母国語である日本語は時々しか使われない。 「ま、まあそんな事は置いといてさ!ミヅが電話終わったら皆で食い倒れ人形見に行こうぜ!!」 「せやな・・・」 3人とも、これ以上考えては行けない、と本能で悟る。 それきりでこの話題は終わりとなった。 ※チーフ・・・地域のヘッドが直でまとめてるグループ。大抵火星に来た当初からヘッドと仲間。 ※2、英語・・・・適当(笑)ごめんなさい。