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「 首脳会談 」














 
春だと言うのに、この日はとても寒かった。
立ち並ぶ廃屋の間を、冷たい風が音を立てて通りぬけて行く。
 
それを聞きながら星覇は、シドの長として彷徨と向かい合っていた。
 

「ちょっとどーでもいいけどさっさと終わらせてくれる!?寒いんだから」
「お前が一番に口開いてどーすんだ夏日」
「五月蝿いわね、言ってから自分でもそー思ったわよ」
「まあまあ、相変わらずやなぁ二人とも」
 

公式の会合、と言うことで立会人として他地域の長もそこに立っている。
まず口を開いたのは、気の強そうな美人でノアの長を務める夏日(なつひ)だ。
それをからかう口調でもう1人―――コアの長である一行(いっこう)が止める。
 
関西弁で声をかけたのは星覇だ(彼曰く「マイブーム☆」であるらしい)
裏に含ませた、さっさと黙れと言うメッセージに二人とも気付いたらしく、大人しく口を閉じた。
 

「さて、と。本題に入るんだけど。・・・一昨日の深夜のことだ」
「一昨日・・・・何かあったか?」
 

彷徨は首を傾げる。一瞬、星覇の目が険しくなるが、どうやら本当に心当たりがないらしい。
仕方がない、と溜息をついて一から説明する。
 

「一昨日、うちのチーフがエゴで襲われた。話聞いたら、相手の中にお前がいた、と皆言ってる」
「・・・そんなこともあったか。あれシドのチーフだったのか」
「『そんなこと』じゃねえよ!お前と、あいつらの間にどれだけの能力の差があると思ってる!?
特殊能力が強い者ほど身体能力も高い、それくらいわかってるはずじゃねーか!!」
「僕が手を出したわけじゃないし、指示したわけでもない」
 

声を荒げた星覇を、彷徨は一言で切り捨てる。
 
ヤヌエスの子供達は皆、多かれ少なかれ特殊能力を持っている。だからこそ、ヤヌエスにいる。
彼らが普通の子供ならそんな必要は無い。
国連や、その他のさまざまな団体も、手を尽くし金をつぎ込んで彼らを研究し続けているが
わかっている事は数少ない。
 
遺伝子の突然変異が原因であること、成人するまでに精神のバランスを崩してしまう者が多いこと
麻薬や一部の薬に過剰な副作用を示す事。
 
そして特殊能力が強いほど、身体の端々に普通の人間とは異なった点が現れること。
これの代表的な例は、先ほど星覇の言った、基本的な身体能力が異常に高い事や、
人間には有り得ないはずの瞳の色だ。
一行にしろ夏日にしろその特徴は顕著に現れている。彷徨の、色の違う左右の瞳もそうだ。
 
とにかく、彷徨がいくら頭脳派であるとは言え、能力の低い者が数人でかかったくらいでは
敵うわけがないのだ。
 

「そーゆー問題じゃねーだろ。お前が一緒にいたんなら止めろよ!それがヘッドの仕事だろ!?」
「関係ないね。だいたい、あいつらの縄張りでこそこそやってたそいつらが悪いんだろ?売られた
喧嘩は買うのがエゴの鉄則だ。それにあの時はたまたま一緒にいただけ」
「てめえなぁっざけんじゃねーよっ!!」
 

ガタンっと傍にあったパイプ椅子を蹴飛ばして、飄々としている彷徨に掴みかかる。
それでも彼は、眉一つ動かさない。
なおも言い募ろうとする星覇を、細い腕と涼しげな声が止めた。
 

「やめとけセイ。やり過ぎ」
「コウ」
「落ち着けよ。‘話し合い’だろ?」
「・・・・・・悪ぃ」
「彷徨も言い過ぎ」
「・・・・・・」

 
その間に夏日が拾い上げた椅子に星覇を座らせて、一行はまた元の位置に戻る。
その赤い瞳には怒りも何も浮かんではいない。また、隣の夏日も同じだ。
 

「あたしら、あんたのこと信用してるよ?頭良い奴だって。ヘッドとして認めてるし。
・・・今の、『エゴの誰が何しようと関係ない』って言ってるように聞こえたけど」
「理解してもらえて嬉しいね。・・・信用なんてされても困るし。勝手に理想押し付けて
こっちがそれに反することしたら『裏切られた』ってキレるんだろ?やめてほしいね全く」
 

世間話のように声をかけた夏日に、マダムキラーと成り得る笑顔で応える。
夏日はやっぱりと肩を竦めるにとどまったが、次に動いたのは星覇だった。
 

「俺やっぱお前大嫌い。・・・これ以上話しても無駄だ。表出ろ、彷徨」
「セイ」
「他の奴らに手は出させねぇよ」
「・・・いいの?彷徨」
「別に」
「決まりだ。さっさと来いよ」
 

4人連れ立って廃屋を出る。
 
外は相変わらず冷たい風が吹いていた。集まっているエゴ、シドの少年達がそれぞれの長を見つめる。
星覇、彷徨は己の地域の少年達を背後にして向かい合い、互いを睨み据える。
その少年達が動けば止めに入れる位置に、夏日と一行がそれぞれ立ち、見守った。
 

「がっち。てゆっか全員。手ェ出したら俺が殺す」
「おー怖。やり過ぎてナル坊殺すなよ」
「誰がこんな奴に殺られるか」
「別に俺あんたのことやなんてゆーてへんけど?」
「・・・・てめえは・・・っ」
「彷徨」
「・・・・・・大丈夫だ、お前も下がってろ影時」
 

二人を見つめる少年達が、どちらも1歩退いた。
 
一行が二人に声をかける。
 

「途中で止めるからな」
「・・・下手したらどっちか死ぬまでやりかねないしねェ」
 

夏日もそれに同調し、星覇が頷くのを確認してから二人もまた1歩下がる。
 
少し長めの前髪を風にはためかせた彷徨は小さく溜息をつく。
星覇の方は目を閉じて、何かを考えているらしかった。
 
そのままの状態でしばらく沈黙が続き、やがて星覇が口を開く。
 

「さっき・・・ナツに言ったこと、もっかい言え」
「信用なんてする方が間違ってる。
 思い通りにならなかったらギャアギャア騒ぐなんて頭悪い証拠だ」
 

瞬間、星覇が動いた。
3mほどの距離を一息に詰め、その勢いに任せて彷徨の頬を薙ぐ。
二人の身長差は5cmほどあるが、それでも彷徨の身体は後ろへ飛ばされる。
 
身体能力、と言うよりもこれは得意・不得意のレベルだろう。自らを頭脳派、インドア派と公言する
彷徨と、自他共に認めるほど肉弾戦の得意な星覇とでは、身長差などたいした苦にもなりはしない。
 

「その考え方が嫌いだっつってんだよタコ」
 

拳を握りしめたまま呟く。
殴られた彷徨は、体勢を立て直しながら言葉を返した。
 

「お前に嫌われようがどうでもいい。
 好きになってくれと頼んだ覚えなんかない」 
 

今度は星覇がフラつく番だった。滅多に見せる事はないが、やはり彷徨も
長の一員だけあって、それなりの戦闘能力はあるらしい。
 
そこからは拳の応酬となった。だだっ広い空間に、頬骨の鳴る鈍い音が響く。
見守る者たちは、何も言わずただ息を飲むばかりである。
 

「なかなか・・・彷徨もやるじゃん」
「あれくらいできなきゃヘッドじゃないでしょ」
 

いつもと変らない口調で話す二人。
黙り込む少年達の中にも平然としている者が数人いた。
シドでは、頭の後ろで手を組んだ勇我、寒そうに上着のポケットに手を突っ込んだ佳、
そしてエゴでは影時だ。
 
 
一行がその様子を面白そうに眺めていた時に、中央の二人に新たな動きがあった。
 








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友情、殊勇我と星覇は親友の関係なんだけど、その中にも 上下関係があるっていうのが良し。ツボだ。 byマジコ